シングルマザー(シンママ)は、ひと昔前はあまりいないイメージでした。しかし現在は、シンママの存在は珍しくありません。なぜ、シングルマザーが増えてきているのでしょうか。この記事では、全国的にシンママが増えている背景や理由と、抱えやすい問題についてご紹介していきます。

シングルマザーは本当に増えている?

「そういえば周囲にちらほらシンママがいるな」という感覚をもつ人は多いかと思います。とはいえ、それでもまだ少数派であり、実際に増えているのかどうかまでは分かりづらいものです。そこで、客観的なデータから、シンママの数の増減傾向について確認してみましょう。

母子世帯や三世代同居のシングルマザー

総務省統計研究研修所から発行されている『シングル・マザーの最近の状況』(2015年)のデータを基に見ていきます。2015年時点で「母子世帯」で暮らしているシングルマザーの数は約75万5千人です。2010年と比較すると、0.2%微減となっています。また、母子のほかに祖父母など「他の世帯員がいる世帯」で暮らしているシングルマザーについても、5年間で約1万8千人減と同じく減少しています。

増えているのは未婚のシングルマザー

次に注目したいのが、未婚のシングルマザーです。直近の5年間で、未婚のシングルマザーは約4万5千人増加しています。増加率は33.8%と「母子世帯」や「他の世帯員がいる世帯」のシングルマザーと比べると明らかに増えていることが分かります。

また、未婚のシングルマザーは年齢層を問わず全体的に増加しています。2000年から2015年までの15年間で、未婚のシングルマザーがもっとも多い年齢層は30~34歳から40~44歳へと移行していて、人口が多い団塊ジュニアの世代を中心に全年齢層で底上げしてきている傾向になっています。

■参考:参考資料:総務省統計研究研修所『シングル・マザーの最近の状況(2015 年)』

シングルマザーが増加した背景は?

シングルマザーの数は、データから見ても増加していることがはっきりしています。それでは、シングルマザーが増加している背景にはなにがあるのでしょうか。ここでは3つの主な背景についてご紹介します。

離婚への抵抗感の薄れ

1つ目の背景として考えられるのは、社会全体において離婚を寛容に受け止める価値観が広がりつつある点です。ひと昔前までは「夫婦は死ぬまで連れ添うもの」という価値観が世代を問わず主流でした。しかし、現在は人生に対する考え方が多様化してきているため、家制度に縛られず自分の生き方を自由に選択するという考えが一般的になっています。

この影響を受けて、結婚制度に対しても「一度結婚したら添い遂げる」という価値観が薄れ、「相手と合わなければ離婚してやり直せばいい」という社会的風潮が離婚へのハードルを下げることにつながっている可能性があります。

女性の社会進出の高まり

雇用機会均等法が1986年に施行されてから、職場や大学など男性中心に回っていた世界に女性が参入するようになりました。進学よりも花嫁修業を重視されていた女性たちが大学進学や会社への就職をするようになり、結婚や妊娠をしても退職せず会社に在籍したままとする率が増えました。さらに近年では、女性活躍推進法によって女性管理職の数を増やす意識が高まっており、さまざまな分野で女性が社会進出しています。

夫の収入に頼らざるを得なかった専業主婦が減少し、男性と肩を並べて働き続ける女性が増えました。生活力がついて自分で生計を立てられる目処がついたことで、我慢して結婚生活を続ける理由がなくなり、離婚して母子で生活しようという女性が増えることにつながったのです。

終身雇用制度の崩壊

高校・大学を卒業して就職した会社にずっと在籍し、年々給料が上がり続け定年退職時にまとまった退職金を受け取れる雇用形態である終身雇用制度は、これまで日本の雇用制度の中心でした。しかしバブルが崩壊した頃から終身雇用制度は崩れ始め、現在ではほとんど残っていません。60歳が一般的だった定年が65歳や70歳まで延長される、そもそも定年を迎える前に退職勧告される、給料がほとんど上がらないなど雇用の環境は大きく変わりました。

雇用環境の変化により、一家の大黒柱である夫の収入をあてにできなくなって働きに出る妻も増えます。すると、お互いに仕事をしているので家事や育児の分担について夫婦間で衝突することが必然的に多くなります。その結果、価値観の違いが鮮明になって離婚に至り、妻がシングルマザーとなるケースが増えているのです。

シングルマザーが増加した主な理由3つ

シングルマザーが増加してきた社会的な背景がつかめたところで、次にシングルマザーが増えた理由が気になるところです。シングルマザーが増加したのはなぜなのか、主な理由を3つご紹介します。

1.夫婦関係の変化

以前は終身雇用制度によって夫の収入が安定していたため、「夫は外で働き妻は家で家事や育児をする」という夫婦像が一般的でした。しかし、男女雇用機会均等法によって女性の社会進出が高まったことで、夫婦共働きの世帯が増えました。夫婦共働きとなり、妻が正社員としてフルタイムで働く場合は、家事や育児の分担を夫に求めるようになります。

このような状況になっても、日本は夫が家事や子育てをしない率が世界の先進国と比較して突出して高いです。日本は、妻の負担が多い夫婦の率が高いのにも関わらず、妻も夫と同じように生活費を捻出するために働いていながら、家事や育児の負担は専業主婦並みに大きいことも珍しくありません。そのため、自然と夫婦間の衝突が起きやすくなります。こうした夫婦関係の変化が離婚につながり、シングルマザーが増えていく理由になっています。

2.自治体の支援制度の充実

シングルマザーが増えてきたことで、国や自治体が母子家庭支援に積極的になっています。中学生までの子どもがいる家庭であれば受け取れる児童手当に加えて、ひとり親家庭の生活の安定を目的に支給される児童扶養手が受けられます。

また、健康保険の対象となる医療費を上限つきで助成する医療費助成や、学用品・給食費・修学旅行費用など子供の学習費用の免除や助成を行う就学援助など、母子家庭を対象とした社会的支援を各自治体が強化しています。

シングルマザーになると収入が自分だけになる上に、元夫からの養育費の支払いが滞るケースが多いです。そのため、母子家庭は一般家庭よりも経済的貧困に陥りやすく、子どもの生活や教育に支障が出るケースが少なくありません。しかし、こうした各種支援があることで、貧困状態にならず、また生活水準を大きく落とすことなく子どもと一緒に生活できる家庭も増えています。このように、シングルマザーになることへの不安が軽減されているのも、離婚が増えている理由になります。。

3.離婚する年代の変化

厚生労働省の調査によると、2000年までは25~29歳の女性がもっとも離婚率の高い年代でした。しかし2005年に30~34歳の女性が離婚率1位となり、さらに35~39歳の女性の離婚率が急上昇してきています。

平成に入ってから離婚率が上昇している30代女性は、まさに育児真っただ中の世代。つまり、母親として育児をしている中で離婚する女性が増えていることから、結果的にシングルマザーが増えることにつながっていると考えられます。

■参考:厚生労働省『離婚に関する統計』

まとめ

シングルマザーへの偏見は以前よりも少なくなっていますが、ゼロとは言えないのが現状です。それでも、社会や女性自身、夫婦関係などさまざまなあり方が大きく変わってきたことにともなって、強く生きるシングルマザーが増えてきています。

シングルマザーの世帯は増えているのですから、悩みや問題を共有することで、子育てをしやすい環境がさらに整っていく可能性があります。まずは、子どもの幸せな生活を第一に考えながら、シングルマザーが自分らしく楽しく生活できる社会になるといいですね。

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